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神戸地方裁判所姫路支部 昭和33年(タ)1号 判決

原告 大川芳子(仮名)

被告 大川健一(仮名)

主文

被告と原告とを離婚する。

被告は原告に対し金十五万円を支払え。

原被告間の次男貴宏の親権者を原告と定める。

被告は原告に対し右貴宏の扶養料として昭和三四年七月七日以降満七才に達するまでは一か月千五百円宛、満七才から満一四才に達するまでは一か月二千円宛、満一四才から成年に達するまでは一か月三千五百円宛を、既に経過した分は直ちに、その後は、その月分を毎月末限り支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

原被告は結婚前の各身分関係及び学歴が原告主張の如くであることは当事者間に争ない。又原告及び被告が昭和二九年三月二日に結婚の挙式をし、以来同棲をつづけ、同三〇年一〇月一三日婚姻届出をなしたこと、昭和三一年一月二四日長男隆博が出生したが右長男は同三二年七月一一日死亡したこと及び同三二年八月五日次男貴宏が出生したことは当事者間に争ない。そして原告が離婚原因として訴状の第三項(イ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(チ)(リ)に於て指摘する女性と被告との間にいわゆる女関係があり且つ時には被告自ら原告に対し女関係を誇示して原告を懊悩せしめ或は女遊びのために原告に無心してことわられると却つて原告の首をしめたり打擲したり等の暴力を振つたこともあることが証人木村又一郎、同布施留八、同大西貞子の各証言並に原告及び被告の各陳述を綜合して認めることができる。証人大西貞子の証言及び被告の陳述中右認定に反する部分は容易にこれを信用することはできない。又前記証拠及び証人足立波子の証言を綜合すれば被告は昭和三二年一〇月頃から足立啓子と情交関係を結びその結果原告をないがしろにするに至つたので原告は遂にその侮辱に耐えかねて同年一二月一六日次男貴宏を連れて実家に帰つたところ、被告は翌三三年二月頃から啓子を入れ込み、爾来これと同棲し、同年八月には啓子との間に男子が出生したこと且つ被告側に於て原告との間に離婚の成立するのを待つて啓子を入籍しようとしていることが認められる。右認定を動かす証拠はない。

してみれば以上認定の各事実は民法第七七〇条第一項第一号にいわゆる配偶者たる被告に不貞な行為があつたときに該当し且つ被告に右認定の事実がある以上同第五号にいわゆる婚姻を継続し難い重大な事由があるときに該当するので、原告の離婚の請求は理由があり認容すべきである。

そこで原告の慰藉料の請求について考察する。

原告が前段認定のような被告の責に帰すべき事由によつて離婚するに至つたのであるから原告の蒙つた精神的苦痛に対し被告はこれを慰謝する義務あることは勿論である。而して原告は実家に帰つてから次男貴宏を養育しながら花売行商に出たりしているが到底自己と貴宏の生活費を稼ぎ得ないので実家の援助を受けているが、実家は父が最近死亡し、兄が小学校教員を勤めている程度で生活していくのが精一杯であることが認められる。弁論の全趣旨によれば被告は接骨医として相当の成績を挙げている父大川要の長男として養育せられ、父の業を継ぐべく接骨医の免状を取り、現在父の営業を補助して生活費の援助を受けていることが認められるが、いづれ将来は独立して相当の収益を挙げるものと考えられる。

よつて右認定の事実に前段認定の離婚原因その他諸般の事情を彼是参酌して被告の原告に支払うべき慰藉料の金額は金一五〇、〇〇〇円を以て相当と認め、その余の請求はこれを失当として棄却する。

次に原告は原被告間の次男貴宏を連れて実家に帰えりこれを養育しているのであり、原告の経済事情からいえば被告が貴宏を引取つてくれることを希望しているのであるが、被告が前段認定の如く訴外足立啓子と同棲しその間子供もある状態に於てこれを被告に引渡すに忍びないで自らこれを養育する決意をしていることは原告の陳述によつて認められるし、当裁判所においても原告がその決意である以上原告をして次男貴宏を監護養育せしめるのが適当であると考える。そしてそのためには母たる原告をその親権者とすることが相当であるから民法第八一九条第二項に基き原被告間の次男貴宏の親権者を原告と定める。

更らに原告は次男貴宏の扶養料として本件訴状訂正申立書送達の翌日(本件記録によれば昭和三四年七月七日であることは明白である)から主文第四項記載の金員の支払を求めるので、これにつき考察する。

元来扶養に関する処分は民法第八七七条ないし第八八〇条家事審判法第九条第一項乙類第八号の家事審判事項に属するのであるが、人事訴訟法第一五条により離婚の訴に附随して申立てられた場合には、地方裁判所はこれを定め得るものと解すべきである。尤もこの点につき同法第一五条第一項の文理上附随の申立事項を(一)監護者の指定その他の処分と(二)財産分与に関する処分とに限定する考え方もあるが、同条第二項は「前項の場合において、裁判所は当事者に対し子の引渡、金銭の支払、物の引渡その他の給付を命ずることを得」と規定しておるのであり、子に対する扶養の問題は子の監護者の指定又は職権を以てなすべき親権者の指定と表裏の関係にあるものである。子の監護養育は子の扶養の内容をなすものである。而して子に対する扶養料はとりもなおさず子の監護養育の費用となるものである。従つて裁判所は子の監護者又は親権者の指定をなすに当り扶養に関する処分として扶養料の給付を命ずることは極めて当を得たというべきである。若しこれに反して、扶養料請求の申立が許されないとすれば、別個に子から家庭裁判所に対しこれに関する審判の申立をなさなければならないことになる。然し他方において訴訟中監護者又は親権者の指定もなされない間に子から扶養料の請求をなすことは至難であり、又申立がなされたとしても、家庭裁判所は訴訟中にこれが審判をなすことは事実上できないであろう。又離婚の判決(従つて監護者又は親権者の指定)が確定した上で、子から直に家庭裁判所にこれに関する審判の申立をなすことは当事者に取つて徒らに繁累と敵愾心とを惹起することになり、又家庭裁判所がこの点につき改めて審判手続を為すことは国家の訴訟経済上も適策でないと思料する。以上の理由により当裁判所は離婚の判決において当事者に対し子の扶養料の支給を命ずる処分を定め得るものと解する。そこで扶養料の額について考察するに、原告の陳述によれば、原告は次男貴宏の監護養育費として現在最低一か月三、〇〇〇円以上を支出していることが認められ、成長に従つて養育教育等の費用の増加すべきはいうまでもない。そこで前記慰藉料の金額の認定につき斟酌した諸事情を考慮してこの点につき原告の請求は相当であると思料し、被告をして主文第四項記載のとおり支払わしめることにする。

なおこの扶養料に関する処分は前記説示のとおり本質上家事審判事項に属するのであり、従つて判決が確定しても、いわゆる既判力を有しないから、将来扶養権利者又は扶養義務者から事情の変更を理由として家庭裁判所に扶養関係の変更又は取消を申立てることを妨げるものではない。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条但書を適用し、主文のように判決する。

(裁判官 庄田秀麿)

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